信夫山の伝説
信夫山は伝説の宝庫のような山。話の一つ一つが歴史や伝承、信仰に裏付けられている。いくつかの話しを紹介しよう
●黒沼のオロチと七曲坂(ななまがりさか)の大ムカデ
昔々、信夫山公園入口の黒沼には、沼を七巻もするオロチ(大蛇)が住んでいて、周囲は常に生臭く、人間や獣の骨がそこここに転がっていたと云う。
ところが、これまた、山の北側には数百年をへた大百足(ムカデ)がいて、その大きさは七曲坂(ななまがりざか)いっぱいもあって人々を苦しめていた。
あるとき、この二匹が争って、烏が崎あたりで共に滅びてしまった。この二匹の骨は文久の山火事で燃えてしまったが、その焔は不気味に青白く、九日間も燃えつづけたという。実は、この話は森合村の古文書にも記録があって、「文久2年の羽山の火事で、焼け死んだ長さ一間余のムカデが白骨で見つかった。」と書かれている。
●皇后様と皇太子様が信夫山に逃げてきた話し
29代目の欽明天皇のとき、その第一皇太子と第二皇太子の間で、王位を継ぐ争いがおき、第二皇太子が30代敏達天皇になった。
敗れた第一皇太子淳中太尊(ヌナカフトノミコト)と、兄を応援していた石姫皇后様は、前後して信夫山に逃れてきた。
その後、お二人が亡くなられたので、皇后様を黒沼神社に黒沼大明神として祀り、皇太子は羽黒山に羽黒大権現として祀った。と、神社縁起に書いてある。
六供は黒沼皇后についてきたお供の子孫だとも云われ、また、石姫伝説はほかにも説が残されている。
●信夫の三狐と猫稲荷の話し
信夫山には、御坊狐といわれる人を化かすのが上手な狐がいた。また、一杯森には長次郎という狐が。卸町の東、石が森には鴨左衛門という狐がいた。三匹は信夫山の南の狐塚というところで会っていた。
ある日、御坊狐は鴨左衛門に騙され、冬の黒沼で尻尾で釣りをしていたところ、氷が張り詰めて大切な尻尾を切られてしまった。神通力を失ったゴンボ狐は(ゴンボとは尻尾の短いこと)改心して、ねずみを追い払う蚕の守り神となって、ねこ稲荷に祀られたという。
御坊狐の化かし話は、面白い話しが沢山に残っている。
●大徳坊がつくった信夫山
昔々、どこからか大徳坊という大男が、たんがら(背負い籠)に三背ほど山土をいれて背負ってやってきた。
ぽつんぽつんと土をあけたところが羽黒山・熊野山・羽山になった。たんがらの底に残った土くれを、ぽんと空けたのが一杯森である。
ひる飯にしようと飯曲輪(めしわっぱ)を開けてみると、飯の間に小石が混ざっていたので、箸ではさんで投げたのが石が森だという。
●信夫山と泥湖伝説
昔々、信達平野は一面の泥湖だった、そして、その真中にぽっかりと美しく浮かんでいたのが、信夫山だった。
当然、そんな島だから水の神さま、農耕の神様として厚く祀られていた。福島市の南にある伏し拝みの坂は、その周辺の人たちが湖に浮かぶ信夫山をはるかに伏し拝んだものが、そのまま地名として残されたものだという。
さて、その泥湖には悪いオロチ(大蛇)が住んでいて、人々を苦しめていた。そこで蝦夷征伐にきた日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が大蛇と戦い打ち負かし、大蛇は梁川の奥の猿跳ねの岩を打ち砕いて海に逃れた。そこで泥湖の水は岩から海へ注ぎ、豊かな信達平野が出現した。そして、その大蛇が逃れた跡が、あの阿武隈川だという。
●羽黒大権現とゆず
信夫山(御山)になぜ「ゆず」があるのか。
昔、羽黒山(羽黒大権現)が都からお渡りになったとき、お守りに持ってきた実が柚子であったそうな。
それは、あるとき羽黒山が悪者に襲われて、トゲのあるゆずの垣根のなかに身を隠して難を逃れたからだと云う。
それで、御山の部落では家の周りにゆずを植えて、トゲで魔物を追い払ういぐね(屋敷の周りに植える木)の守りとした。それがゆず畑のはじまりだ。
また、羽黒山がゆずのトゲで片目を怪我したので、氏子はみんなスガ目(片方の目が小さい)だ。
不思議なもので、同じ信夫山でも御山の部落以外ではゆずは出来ない。これも羽黒山のご利益だと云う。
●ナカンジョ池の老婆
昔、羽黒神社の下には寂光院というお寺があって、女の人は女坂(おんなざか)といわれる道を通って羽黒山にお参りしていた。
そこにナカンジョの池というのがあって、夕方になると手ぬぐいをかぶった老婆が小豆をとぎながら、なにやらぶつぶつ言っていた。「ショリショリショリ小豆とぎましょか、それとも人とって喰いましょか」。
だから日が暮れたら決してナカンジョ池には近づかなかったという。
●頭のよくなる石碑
羽黒神社境内の西北隅に、上杉時代の伊達・信夫両郡の郡代をつとめた安江繁家(やすえしげいえ)の公徳碑がある。
良政によって郷民に慕われたといわれ、寛永元年(1624)に碑が建てられた。
高さ1.8mで中央に円相があり、ここに額をあてると頭がよくなり、頭痛も治ると信じられてきた。円相は大日如来を表すといい、受験生にも人気がある。